【シリーズ・連弾力を磨く:連弾曲をバランスよく仕上げる】

連弾曲をバランスよく仕上げるヒントを、作曲家の視点を織り交ぜながらお伝えしています。

[おまけ] 人間の耳には敏感に反応する周波数帯域がある

人間の耳は周波数(音の高さ)によって感度が違うのをご存じでしょうか。中域〜中高域の感度が高く、ピアノの鍵盤に当てはめると真ん中のドより少し下から一番右端のド(最高音)くらいまで[*]です。実際の楽音には様々な周波数が含まれていて、また音域ごとの響きやすさは楽器の造りにも関係しているので、耳の感度をピアノの鍵域にそのままあてはめることはできないのですが、以下のようなことが言えるのではないかと考えています。

前回の《各パーツの役割を演じる喜びに慣れていない》でバスのパートを例に挙げました。通常のバス音域は前述の鍵域[*]から下に外れたところにあります。周波数が低くなるほど耳の感度も低くなっていくのですが、ピアノは低音ほど倍音が豊かに発生される仕組みになっていて、しかも減衰が大変ゆっくりです。そしてそれら倍音のほとんどは人間の耳が敏感な周波数帯域に“幅広く”収まり、基音と同等かそれ以上のエネルギーを持っています[スペクトラム図3]から、楽音として大変大きなアピール能力を与えられていると言えるでしょう。響き全体に耳を傾けずに、鍵盤を叩くという指の感覚だけに頼ってしまうと、倍音成分がどんどん混ざり込み、他のパートを覆ってしまう、あるいはなんだか騒々しい、という原因になります。しかしそれを逆手にとれば、強く前面に出るように弾いて音楽の表情を大きく動かすのに有効だと言えます。

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基音も倍音も感度の高い帯域に入っているのが、ちょうどセコンドの右手からプリモの左手あたりの鍵域です。それより上に行くと、だんだんと倍音成分が少なくなり、減衰も早くなります[スペクトラム図4]ので、楽音として一番耳に届きやすいのは真ん中のドの少し下から上に2オクターブくらいではないかと思います。セコンドが伴奏役に回っているとき、右手の和音がよくその付近にありませんか?あるいはプリモの左手が担当しているオブリガートやメロディーの補助役などがここに含まれていることもあるのではないでしょうか。その特徴を考えてバランスを工夫したり、積極的に利用することでダイナミクスを演出したりするのも一つのアイディアとなります。

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該当する帯域の中でも特に敏感な基音を持っているのが最高音のドより少し下付近です。大変きらびやかな音色を持っていますね。しかしこの付近は発生する倍音が感度の低いところにしか無く、そして基音を含めてすぐに減衰してしまいます。パッと耳を引きつけるのにはよいですが何かを物語るには不向きですね。それを考えるとあまりそっと弾いてもそのキャラクターは生かせそうもありません。余談ですが、赤ちゃんの泣き声や女性の悲鳴にはこの付近の周波数がよく含まれているそうです。

さて、「連弾曲をバランスよく仕上げる」について6回にわたってお伝えしてきましたが、これらの観点を総合的に考えると、連弾演奏におけるバランス・コーディネーションのみならず、ピアノ演奏そのものとさらに面白く付き合えるようになるのではないでしょうか。ご参考となりましたら幸いです。

長らくのご清覧をありがとうございました。

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