【シリーズ・連弾力を磨く:連弾曲をバランスよく仕上げる】

連弾曲をバランスよく仕上げるヒントを、作曲家の視点を織り交ぜながらお伝えしています。

[3] 各パーツの役割を演じる喜びに慣れていない

ピアノを学び自分一人で完結する音楽に接していると、主役として演奏する喜びを知ることができても、パーツとしての役割を演じる喜びに触れることがなかなかありません。『自分の役割を理解してバランスや音色を工夫することは、音楽全体を立体的に聞かせることにつながります。』

ほんの一例ですが、バスにはどんな役割があるか考えてみましょう。楽曲に現れるハーモニーの最低音を奏し、響きを支えたり和声進行を牽引したり。また強拍を奏してリズムを先導したりなど、土台となって曲を押し進めていく役を演じることが多いですね。ではこれが連弾におけるバランスにどう結びつくのでしょう。

ピアノの低域はコントラバスと同じように倍音が大変豊かです。[スペクトラム図1]を見てください。これは真ん中のドの2オクターブ下のドを弾いたときに実際に現れる基音と倍音を視覚化したものです。ちょうどピアノの鍵盤のように、左の方が低い音(周波数)で右へ行くほど高くなります。私たちはこれら全ての集合体を一つの楽音として捉えています。これを、真ん中のドを弾いたとき[スペクトラム図2]と見比べるとどうでしょう。2オクターブ下のド[図1]は、真ん中のド[図2]と同じくらい高い周波数の倍音までを含んでいて、しかもとても密になっていることがわかりますね。さらに音のエネルギーでみればむしろ基音よりも倍音の方が高いように見て取れます。

このようにピアノの低音は、基音が浮き立って聞こえていなくても、その倍音のおかげで潜在的にその存在をアピールできるように設計されています。ですから、いくら牽引役といってもリーダー役のようにあまり表だって弾くと、ピアノの響き全体を覆ってしまうようになり、荒々しさや重厚さが勝ってしまいます。(逆に言えば、荒々しさや重厚さを演出するのは低域の得意技と見ることができます。)それよりも、バスパートから生まれる響きが音楽全体でどのくらいの存在感となっているかを意識してみましょう。『控えめな支え役となって弾くと高域のパートが浮かび上がって全体が立体的に聞こえ、強く前面に出るように弾くと音楽の表情が大きく動く』といったようなことを体験できたなら、バスパートを弾くのが好きになるのにそう時間はかからないはずです。(続く…)

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